熊日出版

バレンタインの苦~い思い出

 

大学生のころ、阪急北千里線沿いの学生専用下宿に住んでいた。広告研究会の悪友Kも同じ下宿だった。

大学2回生の冬。2月14日は大学入試のため授業は休講だった。

「電話ですよ」。

大家さんの部屋に呼ばれて受話器をとると、広告研究会の1回生S子からだった。

彼女は北陸出身で、あまり目立たない、地味な感じの子だった。

「先輩に渡したいものがあるのでマロニエに来てくれませんか。Kさんも一緒に」。

 

マロニエは阪急千里山駅の隣にあった喫茶店で、オムライスが人気だった。

「チョコレートをくれるみたいだ。ついでにお前も一緒に、てことらしい」。少し浮かれていた。

店に着くと彼女は先に来ていて、テーブルの上に袋が二つ置いてあった。

私の前には無地の小さい袋。開けてみると、いつも食べている普通の板チョコだった。

一方、Kの前に置かれたリボン付きの袋からは、大きなハート型のチョコレートが出てきた。当時、「傷だらけの天使」や「前略おふくろ様」で人気絶頂だったショーケン(萩原健一)がコマーシャルしていたやつだ。

 

やられた。

彼女のお目当てはKだった。私を利用してKを呼び出したのだ。純朴そうに見えて、なんという彼女の狡猾さ。

義理チョコも営業チョコも少なくなった今、普通の板チョコでもいいんだけど、と思う今日この頃である。                                    (U)

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