熊日釣り情報

しけの日にはわが家で読書

404号

つゆのひぬま

山本周五郎 新潮文庫 平成15年改版

 時代もの、現代ものの両方が読める短編小説集。「山女魚」は表題作と同様、時代小説で武家ものだ。国許に住む兄の春樹と江戸詰めの弟丈之助との兄弟愛がテーマになっている。

 病弱で憂鬱癖の春樹は大瀬川へ魚釣りに行く日々を送り、美しい新妻、しず江を迎えた。だが、病はますます色を帯びていた。「おれの身にまんいちの事があったら…」。そんな手紙もきた。そこに春樹が死んだという知らせが届いた。大瀬川の淵に竿を持ったまま身を投げ、自ら命を絶ったのだ。遺書は隠され、病死を装ったが、春樹の死の陰には、丈之助を慕うしず江がいた。親族が集まり、丈之助がしず江を妻にして家督を継ぐと決まった。家名を一切出さず、家が重んじられた時代をえがくところに著者の真骨頂がある。

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