しけの日にはわが家で読書
401号
連載34で取り上げたエッセー集の1冊目。本書の中の1編「黒鯛釣り」は『日本の名随筆 釣』(開高健編、作品社)にも選ばれている。
クラシックの作曲家でエッセイストの著者は、自宅(神奈川県葉山町)近くの海で釣りを楽しんだ。だが、黒鯛(チヌ)は年に4~5匹しか釣れず、いっそやめてしまおうと思っていたときに、録音スタジオで初対面のフリュート奏者に声を掛けられる。著者の近所に住むその演奏者は「黒鯛は釣れて釣れて、困るくらい」と言った。
後日、自宅を訪ね、釣法を聞くうちに著者は降参。早速、弟子入りした。2人で堤防に行き、直伝の乾燥させた蚕のさなぎを餌に、針にはヒューズの鉛をつぶして付け、髪の毛より細いハリスにした。すると、1・7㎏ほどの本命が上がった。