熊日釣り情報

しけの日にはわが家で読書

426号

包む

幸田 文 講談社文芸文庫 1994年

明治37年生まれの著者は文豪露伴の娘。DNAを受け継ぎ、珠玉の随筆を残した。「私が知っている父の釣は、もうほとんど鱸つりにかたよっていた」という書き出しの「鱸」は、6ページほどの短いエッセーだが、父親露伴の日常の一断面を見せる。「おれの好きなようにして釣って遊ぶんだ。(略)海じゃあいやなんだ」。露伴はいつも利根川の舟釣りだった。連れて行ってとせがむ文の3歳違いの弟成豊とよく出かけた。たくさん釣れると子どもは有頂天に。魚は船頭料理で食べた。成豊は「うまいなあ」と笑った。

成豊が20歳で亡くなった後、露伴はしばしば最愛の息子と行った釣りの話をしたという。それは「感傷もなにもなく、明るく懐かしく話した」。文には「跡味が寂しく残された話」だった。

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