熊日釣り情報

しけの日にはわが家で読書

423号

坂口安吾全集7

坂口安吾 ちくま文庫 1990年

 小説20編を収める。「釣り師の心境」は短編小説というより随筆のよう。〈私〉は「三日間ぐらい鮎釣りをした以外は魚を釣ったことがない」が、妙に魚釣りに縁があるところに住んだ。もちろん、釣りの誘いはあるが、もっぱら見物に回る。

 1日で2、3匹しか釣れないことも。「釣りなどというものは風流人のやることで、無念無想、風光にとけこんでいる心境かと思ったら、とんでもない(略)。糸をたれてセカセカしている」。釣り人はちゃんと見られているのだ。小田原にいたころは詩人の三好達治がアユ釣りにきた。毛針を使うドブ釣りだ。「名人の特技のようなことを言って力んだが、実際はてんで釣れなかった」。すると「鮎が小さい」と魚のせいにした。「魚釣りはきまって天狗になるものらしい」と見抜いた。

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