プリニウスは古代ローマの博物学者。彼が著した『博物誌』は途方もない大百科事典だった。この大書に魅せられた澁澤が気まぐれで読みかじり、奇想天外な想像力あふれる異世界に誘う。

　百科事典だからあらゆることが載っている。頭足類の項目もある。血のない魚は３種類。イカ、タコの頭足類、甲殻類、貝類だ。「コウイカは雄のほうが多彩で色が濃く、しかも大胆である。雌が銛（もり）で突かれると雄は助けにくるが、雄が突かれても雌はさっさと逃げてしまう」。逃げるときに吐き出す黒い液体は「血のかわり」だという。

　タコは貝が大好物。「タコは貝が口を開けているのを見すますと、殻のあいだに小石をはさむ」。そして貝の肉を引っ張り出す。貝はくさびを打ち込まれているので閉じることができない。