熊日釣り情報

しけの日にはわが家で読書

403号

江戸の海

白石一郎 文春文庫 1995年

 海を舞台にした短編時代小説集。表題作は釣り好きの3人の人生模様をえがく。

 3日働いたら3日は釣りをする指物職人の岩蔵、無役の御家人である的場金八郎、訳ありの女おさえが出会ったのは、ハゼとキスが釣れる江戸湾の洲崎の磯。それぞれが胸の内に重いものを抱えていた。ある日、暇な3人は江戸湾の舟釣りに出たが、大風に遭い対岸の木更津まで流された。命拾いして口から出るのは身の上話。おさえの旦那は小普請支配の井上監物で、二カ月後、金八郎は彼女の口利きで御徒士見習のお役目をもらった。

 非番の日、金八郎が洲崎に行くと、2人が釣り糸を垂れていた。「あなたはもう魚釣りとは縁のなくなった人よ」。おさえのその言葉に、金八郎は魚が掛かる気がしなかった。

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