熊日釣り情報

熊本日日新聞 釣り欄取材メモ

天草の産業遺産 烏帽子坑跡

天草市牛深町 後浜新漁港
平成25年9月7日

 牛深はやはり遠い。熊本市東区からノンストップの車で2時間40分ほど。渋滞のない午前5時前に出発しても、後浜新漁港に到着したのは7時半です。9月7日の早朝は気温23度。ひところの猛暑がウソのようです。釣り人も、コンスタントに当たりがあるようで、ウキウキ顔です。

 後浜から須口浦、茂串へと回り、Uターンして下須島まで足を延ばしました。夏の海のシーズンが終わった砂月のビーチには投げ釣りの人がひとり。車を止めて振り向くと、もういません。そのまま小森を目指しました。途中、道路脇から烏帽子坑跡を遠望。同坑跡を目にするのは27年ぶりです。カメラの望遠レンズでのぞくと、坑口のアーチの要石(キーストーン)が落下し、コンクリートで埋められています。背後の石積みの防波堤は往時の姿をとどめているようです。天草市教育委員会が建てた説明板には「明治30年ごろ創業した海底炭坑跡」と書いてありました。

 110年以上前の構造物が、海に突き出ています。そこではかつてどんな光景があったのでしょうか。海を見下ろしながら、山本作兵衛がえがいた筑豊の炭鉱の絵を思い浮かべました。世界記憶遺産に登録されたあの絵画です。そして時の流れに思いを重ねました。

 政府は9月17日、旧三池炭鉱万田坑(荒尾市)や三角西港(宇城市)を含む「明治日本の産業革命遺産 九州山口と関連地域」を国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界文化遺産に推薦することを正式に決めました。ところが、この烏帽子坑跡は「関連地域」に含まれていません。どうしてでしょう。天草には同坑のほか、苓北町や旧河浦町に炭鉱があり、志岐炭鉱(苓北)は昭和50年まで、河浦では40年まで石炭を採掘していました。今ではすっかり忘れ去られていますが、天草は、かつて石炭の島でもあったのです。その生き証人が煉瓦造の坑口が残る烏帽子坑跡。

 万田坑は竪坑櫓や巻き揚げ機など、一連の炭鉱施設が残っているので、世界遺産候補になるでしょう。長崎県の軍艦島も同候補に含まれ、いまやクルージングの人気コースとなっています。規模はぐっと小さくなりますが、天草の烏帽子坑跡だってりっぱな産業遺産です。

 釣りとはまったく無関係ですが、9月14日、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が新型ロケットのイプシロン1号機を鹿児島県の内之浦宇宙空間観測所から打ち上げました。8月27日の打ち上げが中止になり、再挑戦で見事打ち上げ成功。2万人のギャラリーから大きな拍手と歓声が上がる瞬間が、テレビで繰り返し流れました。この日、熊日釣り欄でおなじみの釣りライター松本さんも現地に見学に行っており、「イプシロンの打ち上げは鳥肌ものです」とメールが届きました。機会があれば、ぜひロケット打ち上げを見たいものです。(掛)

  • 煉瓦造の坑口と石積みの防波堤が残る烏帽子坑跡。後方は片島
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