熊日釣り情報

熊本日日新聞 釣り欄取材メモ

左手に太陽、右手に月

上天草市大矢野町 鳩之釜漁港
平成25年4月27日

 〈汝洪水の上に座す/神エホバ/吾日月の上に座す/詩人逸枝〉

 豊川村(現・宇城市松橋町)で生まれた詩人で女性史研究者の高群逸枝の詩です。この4行詩を思い浮かべたのはほかでもありません。ここにあげた写真の光景のただ中に、ひと時ですが、身を置いたからです。

 4月27日、鳩之釜漁港(上天草市大矢野町)から福吉丸(上川敏廣船頭)で出船した午前5時20分はまだ暗く、満月の残りの月が空にかかっていました。その月は空が白んでくるにつれ、次第に薄い白色になります。そのうちに空と有明海の境付近で見えなくなりました。

 月の存在感が薄くなるころ、東の空がオレンジ色に染まり、太陽が顔を出します。船は南島原沖を目指して航行中で、朝日と湯島が重なり、ちょうど湯島の真上から来光です。

 船の最後尾に後ろ向きにいて、左手に太陽、右手に月が見えます。船に乗っていましたが、まぎれもなく海の上から二つの天体を目にする時、地球を意識します。〈吾日月の上に座す〉は高群の「決意」なので、リアリティーを感じません。たぶん、こんな風景を見たことがないのだと思います。

 天草四郎に率いられた切支丹宗徒はこのような神々しい朝の空を見たのでしょうか。原城跡が間近に見えてきたので、天草・島原の乱を思いだしたのです。寛永14年(1637)から15年にかけ、大矢野島から、そして天草下島の富岡からこの有明海を小舟の集団が渡りました。そして、だれも帰ってきませんでした。370年あまり前の話です。

 昔と比べ、変わっている風景といえば雲仙普賢岳の山容だけでしょう。地球、太陽、月は昔も今も同じ時を刻んでいます。平和な時代だからこそ、釣りが楽しめます。この日はイワシを泳がせてヒラメ狙い。良型が上がりました。(掛)

  • 前夜の満月が白く消えていく
  • 前夜の満月が白く消えていく
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