熊日出版

特別な1冊の本がもたらした奇遇

新年あけましておめでとうございます。(や)です。本年もどうぞよろしくお願いいたします。

 

 

遠く離れた人や親しい人ともメールやSNSで気軽につながることができる昨今、年賀状を送るという風習は年々減ってきていますね。減っているけれども今はまだゼロではありません。年始の挨拶の形式は人それぞれ。いろんな形があっていいかと私は思います。

 

さてそんな中、仕事始めの今日(1月4日)、群馬県のある方から封書が届きました。年賀ハガキではないし、差出人の名前を見ても、ここ数年内で出版でお世話になった著者の名前でもないし、すぐにはピンとこず・・。

 

 

中を開けてみると、古い集合写真のコピーとA4用紙1枚分のお手紙が。1行目を読みだしてすぐに思い出しました。

 

弊社で出版した『アカシアの花の下で-わが青春の撫順』を購入したいという男性(Sさん)からの電話を昨年(2020年)6月に受けていました。

 

 

 

その本は、戦時中、看護婦になるという希望に燃えて満州へ旅立った少女の波乱万丈な戦争体験記を綴った自伝なのですが、その著者である女性と、昨年お電話をかけてこられたSさんのお母様が偶然にも同じ時期に撫順の同じ学校で医療を学んだらしく、Sさんは亡くなったお母様の生きてこられた軌跡を探りたいと調べていてこの本の存在に辿り着いたようでした。

 

 

どうしてもその本を読みたいので購入したいです、というご希望でしたが、刷り部数も少なかったので既に売り切れて在庫はなく・・。

電話口でお母様の話を熱く語られている思い、お母様と同窓生ではないかという奇遇、母親の生き様を知る手掛かりとしてその本を読みたいという強い気持ちがひしひしと伝わってきて、私も「これは是非読んでもらわねば」という気持ちにかられまして、編集担当だった(か)さんや(と)さんに「在庫以外に余っている本はないですか」と事情を話しました。(と)さんが唯一編集担当者用に保存していた本を「これを送ってよかよ」と提供してくれたのでゆうメールで送りました。

 

 

3日後には「本が届きました。本当にうれしいです。ありがとうございます。母の姿を重ねながら読ませてもらいます」とSさんからお礼のお電話があり、とても喜ばれている様子だったので私もなんだかホッとしました。

その時の対応は特別でしたが、やはり読みたい人に読んでもらう機会があるならば特別であってもその橋渡しはしたいもの。

 

 

お手紙を読んでいて、そういえば昨年そういうやりとりをしたなと思い出しました。そのSさんから新年早々に届いたお手紙は、Sさんが熊本の実家に行った時に古いアルバムを見ていたら、満鉄撫順医院会の集合写真が見つかり、上記本の著者(歌岡ツユ子さん)の名前もありました、と。だから断片的でも母のことを理解ができたこの本を出版してくれてありがとう、と。

 

 

著者の歌岡さんは他界されたそうですが、この本の発行人である娘さんに編集担当者を通じてこのお手紙と写真を渡してもらおうかと思います。

私も読みましたが、とても壮絶な戦争体験記ではありますが、その中に芯の強さや優しさを感じ取りました。

1冊の本が結んだご縁に意味を感じた初日でした。思いがけないめぐりあい。まさに奇遇ですね。
こちらこそありがとうございました。(や)

 

 

『アカシアの花の下で-わが青春の撫順』(※在庫なし)

アカシアの花の下で-わが青春の撫順

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